古民家を購入して住む際の注意点

先日、約7年前に南房総に建つ昭和初期に建てられた思われる古民家(正確な築年数は不明)を購入したAさんから連絡があり、そこでの生活を断念することにしたそうです。

Aさんは物件を購入する前にホームインスペクション(古民家鑑定調査)を行い、建物の劣化度合いや早急に手直しが必要な部分、生活する上での問題点などを明らかにした上で購入を決断したのですが、現在は築浅物件への住み替えを検討しているとのことでした。

購入した当初は格安で入手した古民家をセルフリノベーションしながら暮らすことを心から楽しんでいたようですが、3年を過ぎたあたりから様々な挫折を経験するようになり、やがて疲れてしまったそうです。

近年は古民家で田舎暮らしをするために地方へ移住する人が増えているようですが、古民家で生活するのには様々なデメリットが伴います。

そこでこの記事では、古民家を購入して住む際のメリットとデメリットを紹介したいと思います。

古民家イメージ
襖で仕切られた古民家の代表的な間取り
※写真はイメージです。本文とは関係ありません。

古民家で暮らすことのメリット

古民家を購入するメリットとして多くの方が格安で購入できることを挙げると思いますが、これは間違いです。

安全で快適に古民家で暮らすためには、家屋の強度を高めるだけでなく断熱性の向上や設備の更新など、相応の改修工事が必要になります。

したがって近年の住宅並みの居住性能を求めるとなれば、新築住宅を建てる以上のコストがかかってしまうことも決して珍しくありません。

(実際に業者に本格的な古民家リフォームを依頼すると、1,000万円を超える費用がかかってしまうのが一般的です)

まずはこの点を理解しておく必要があります。

古民家で暮らすことのメリットは、古民家でしか味わうことができない落ち着いた雰囲気が感じられることといえます。

日本情緒あふれる旅館に行って心が休まるのと同じような、リラックスできる空間が備わっていることが古民家の最大の魅力といってもよいでしょう。

また古民家は建物全体が天然の無垢材で作られており、木の独特な温もりは生活に癒しを与え、新建材で作られた近年の住宅では決して得ることができないストレスを緩和する効果があります。

シックハウス症候群やアトピーの原因物質を含まないので、幼児や高齢者などでも安心して暮らすことができます。

そして古民家は部屋の仕切りが襖一枚であることが多く、襖を取り外すことで複数の部屋から一つの大空間に変えることができる可変性を備えています。

天井高が高くて奥行きのある空間は、都会の家では味わうことができない開放感を演出します。

さらに夏場でも涼しく過ごせるのが古民家で暮らすメリットのひとつといえます。

高温多湿の我が国においては、夏の暑さ対策が家づくりの重要ポイントでした。

古民家には風通しの良い開放的な間取りや直射日光を避ける深い軒の出・庇など、あらゆる箇所に暑さを解消する工夫が見られます。

古民家で暮らすことのデメリット

築年数が経過している古民家は、建物全体が劣化している可能性が高くなります。

特に長年人が居住していない家ほど換気不足や雨漏りなどによって建物内部に湿気がたまり、柱や土台、梁などの構造躯体が深刻なダメージを受けていることが多くなります。

古民家の土台の腐蝕
土台が腐食している事例

またシロアリ被害を受けていることも多いので、たとえ表面上は問題がなかったとしても、床下や天井裏などの建物の細部に至るまで専門家にチェックしてもらうことが大切です。

そして古民家のほとんどは1981年(昭和56年)に改正された新耐震基準を満たしていません。

そのため新耐震基準に適合させるための耐震補強工事が必要になります。

状況によっては高額な費用がかかってしまうこともあるので、事前に専門家による耐震診断を受けておくと安心です。

一定の条件を満たせば耐震診断や耐震補強工事にかかる費用の一部を負担してもらえる補助金制度もあるので、お住まいの自治体のホームページなどで事前に確認しておくとよいでしょう。

さらに古民家の最大のデメリットといえるのが、冬は非常に寒いことです。

前述したように古民家は風通しの良い構造なので夏は比較的涼しいのですが、気密性が低いため冬には冷たい外気が建物内に侵入してしまいます。

また古民家と呼ばれる家には、断熱材がほとんど使用されていません。

そのため冬も快適に過ごせるようにするためには、天井裏や外壁面、床下などに断熱材を充填する、内窓を設置するといった断熱リフォームが不可欠となるでしょう。

こうしたリフォームは、少し手先が器用な人であればDIYで施工することも可能です。

Aさんも休みの日にはDIYで少しずつ作業していました。

しかし建物が古いため、柱や土台、梁などに反りがあるので建具を閉めてもどうしても隙間ができてしまったそうです。

そのため隙間風を完全に防ぐことができませんでした。

また夏場には蚊やゴキブリ、ムカデなどが多く、長年都会で暮らしていたAさん一家にはストレスの原因になってしまったようです。

こうしたことから購入した古民家を手放すことになったAさん。

「非常に貴重な経験になった」と言っていたのが印象的でしたが、ブームに乗せられて古民家暮らしに憧れている方は、是非デメリットについても良く検討しておくことが大切です。

専門家によるホームインスペクションについてはこちら

かめだの部屋 住宅診断士 亀田 融