中古住宅の「建物の傾き」はどの程度までが許容範囲なのか?

中古住宅のホームインスペクションでは床や壁などが傾斜しているかどうか、傾斜している場合にはどの程度傾斜しているのかをオートレーザー(レーザー墨出器、レーザーレベル)や水平器、下げ振りなどを使用して必ず確認します。

壁や床の傾き調査
【オートレーザーを使用した壁や床の傾き調査】

しかし建築物は工業製品などとは異なり現場で職人が手作業で建てるものなので、一定の傾きは認められています。

家の傾きの許容範囲は、「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」および「国土交通省告示」によって、新築住宅であれば3/1,000以内(0.17度以内)とされています。

つまり1,000mm(1メートル)につき3mm傾いている状態であれば許容範囲内とされます。

そして中古住宅の場合には以下の表が診断の目安とされています。

表 住宅紛争処理の参考となるべき技術的基準

レベル勾配の傾斜構造耐力上主要な部分に瑕疵が存する可能性
     13/1,000未満低い
     23/1,000以上6/1,000未満一定程度存する
     36/1,000以上高い
住宅の品質確保の促進等に関する法律(平成十一年法律第八十一号)第七十条より

ただし壁または柱については2m程度以上の間隔において計測したもの、床については3m程度以上の間隔において計測したものとなっています。

したがってホームインスペクションにおいては、一定の間隔で主に6/1,000以上(0.34度以上)の傾斜がないかどうかを計測して確認します。

6/1,000以上の傾きとはわかりやすくいえば、8帖の正方形の部屋(3.64m×3.64m)の場合には、部屋の手前と奥を比較して約22mm以上の傾き(6/1,000×3,640=21.84)があることをいいます。

そして家の傾きを感じる度合いは人によって異なります。

6/1,000程度の傾きがあったとしてもあまり違和感を覚えることがない人がいる一方で、3/1,000程度の傾きでも稀にめまい・頭痛・吐き気などの体調不良を引き起こす人もいます。

したがって6/1,000以上の傾きがなければすべての人にとって問題がないともいえないのが実情です。

家の傾きの原因とは?

では家の傾きの原因にはどのようなものがあるのでしょうか。

家の傾きの原因は主に次の8つです。

・地震による液状化や地盤のずれ

・近隣での大規模工事や地下水の多量の汲み上げ

・埋め立て地や盛り土をした土地、傾斜地などでの不同沈下

・軟弱地盤による地盤沈下

・建物の構造上の問題

・設計上の問題(梁を支える壁量の不足等)

・床の下地材の経年劣化や腐食

・新築時やリフォーム時の施工不良(欠陥住宅)   

一般の方が床の傾きを調べる方法として、フローリングの床の上にビー玉を置いてビー玉が転がるかどうかを確かめる方法が良く知られていますが、ビー玉が転がったからといって必ずしも家全体が傾いているとは限りません。

壁や柱に傾きが見られなかったり、他の部屋ではビー玉が転がることがなかったりする場合には、床の施工不良が原因だったり(新築当時から水平でなかった)、根太や梁などの床の下地材に原因があったり(劣化、反り、変形の発生等)することがあるからです。

そしてその場合には、比較的容易に補修工事を行うことが可能です。

家の不同沈下が疑われるケースとは?

それでは家の不同沈下が疑われるのはどのようなケースなのでしょうか。

私たちホームインスペクターは建物の様々な部位を調査・計測した上で、不同沈下の疑いがあるかどうかを総合的に判断します。

前述したオートレーザーなどで壁や床の傾きを計測するほかに、以下の項目についても診断を行います。

・基礎の大きな(幅0.3mm、深さ4mm以上)ひび割れの有無

・床下の地盤の陥没や防湿コンクリートのひび割れの有無

・外壁(特に開口部隅角部)のひび割れの有無

・壁タイルの浮き、亀裂、はがれの有無

・室内の天井・壁のひび割れやビニールクロスのよじれの有無

・建具の建付け不良の有無や、建具枠と壁との隙間の有無

・土間コンクリート(犬走り)、玄関ポーチなどのひび割れの有無

・ブロック塀などの亀裂や傾きの有無

これらの事象がある場合には総合的に検証した上で、不同沈下の可能性が高いかどうかの判断を行います。

しかしホームインスペクションはあくまでも住宅のコンディションを調査して依頼者に報告するのが目的なので、不同沈下の有無やその原因を断定することまではできません。

したがって必要に応じて詳細な調査を行う必要があります。

そして不同沈下により建物に発生する症状は沈下量によっても大きく異なりますが、徐々に建物に大きなダメージを与えるようになるのが一般的です。

そのため少しでも不同沈下の兆候がみられた場合には、できるだけ早く詳細な調査を行って適切な処置を行うことが重要です。

不同沈下の修正工事には、ジャッキを使った杭工法、基礎下に耐圧板を敷設する耐圧盤工法、土台部分から家を持ち上げる土台上げ工法、軟弱地盤に薬液を注入する薬液注入工法等さまざまな工法がありますが、いずれも費用が高額になるので注意が必要です。

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かめだの部屋 住宅診断士 亀田 融