ホームインスペクションの誤った認識 ~実際の事例より~
ホームインスペクションとはすでに完成している住宅、またはすでに人が何年も住んでいた住宅について、消費者がその住宅の価値を判断するための情報を提供するものです。(日本ホームインスペクターズ協会 ホームインスペクションマニュアルより)
住宅建築に精通した専門家が主に目視で住宅を細かく調査して、消費者が購入しようとしている住宅がどの程度傷んでいるのか、購入後に補修の必要があるのかどうかなどを判断する手助けになるものです。
そして消費者は建物がどれほど傷んでいたとしても、立地や周辺環境、建物の形状・規模などから「価値がある」と思えば、補修にかかる費用も覚悟の上で納得して購入の判断をすることもあるでしょう。
したがってホームインスペクションで見つかった建物の不具合は、買主が物件を購入するかどうかを自分で判断するための材料のひとつにすぎません。
しかし購入希望者の中には、ごく稀に建物の不具合を見つけて売主に値引き交渉をすることを前提にホームインスペクションを行なおうとする方がいます。
実際に特に大きな不具合はなくても、できるだけ重大な欠陥があるかのように報告書を作成して欲しいと依頼されたこともありました。
まるで「自分がお金を払っているのだから、自分が有利になるように報告書を作成するのが当たり前」といっているような感じでした。(もちろんそのような依頼は丁重にお断りしています)
そのようなケースでは過剰な値引きを要求したために、最後には売主様が怒ってしまって売買契約には至らないことが多いようです。
そこで今回は、私が過去に経験した事例を詳しく紹介したいと思います。
ホームインスペクションで調査する主な内容
ホームインスペクションで調査する内容は依頼する会社によって多少異なりますが、どんなホームインスペクターに依頼しても必ず調査する具体的な箇所は次のようになります。
・雨漏りの有無(屋根、外壁、サッシ廻り、バルコニー廻り等の不具合の有無)
・シロアリ被害の有無
・給排水管からの漏水の有無
・建物、床の傾きの有無(水平、垂直の確認)
・構造躯体の状況と不具合の有無(基礎、床下、屋根裏等の確認)
・給湯器、水栓、換気扇、照明器具、玄関ドア、サッシ、室内建具等の作動確認
(尚、ホームインスペクションでは目視による確認がメインとはいうものの、一部レーザーを使った計測機器や含水率計、鉄筋探査機、打診棒(パルハンマー)などの調査機器を使用します。)
そして不具合が見つかった場合には、売主様が購入希望者からの補修の要求や値引き交渉に応じてくれるケースもありますが、中には「だったら他の購入希望者を探す」となってしまうこともあるので、売主様に交渉する際には細心の注意が必要になります。
私が経験したのは、まさにこのようなケースでした。
ホームインスペクションを上手に利用する方法
中古住宅の売買では、売主が個人の場合には「瑕疵担保責任を免責とする特約」が契約書に盛り込まれていることがあります。
特に築年数が古い物件ほどこの傾向が大きくなります。
そしてその場合には、引き渡し後に何か重大な不具合が見つかったとしても売主に補修費用を請求することはできません。
したがって売買契約を行う前にホームインスペクションを行って、「不具合があれば条件や価格の交渉をしたい」と考えたくなるのは購入希望者としては当然の発想でしょう。
しかし売主側の立場から見れば不具合のない中古住宅などほとんどないので(実際に新築物件でも何らかの不具合があることがほとんどです)、「ほんの些細な不具合まで値引きを要求されるのであれば他の買主を探す」となってしまうことが多いでしょう。
そして診断を行ったホームインスペクターも、物件の売主様に対して意見を言う立場ではないのです。
したがってホームインスペクションを依頼する方は、この点を事前に良く理解しておくことが重要になります。
そして中古物件の購入を考えている方は「購入希望の物件に存在している不具合は許容できる範囲なのかどうか」を判断することができて、物件の売主様にとっては「物件の抱えている不具合を全て開示して、それでも購入したいと言ってくれる方と気持ちよく契約したい」となることが大切なのではないでしょうか。
ホームインスペクションの目的は、決して「建物のあら探しをして価格交渉するためのものではない」ことを売主様にも買主様にも理解していただきたいと思います。
【ホームインスペクションの究極の目的は、売主様と買主様がお互いWin-Winの関係になることといえます】
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かめだの部屋 住宅診断士 亀田 融