住宅の断熱材の設置基準は築年数によって異なるって本当?

現代の住宅には断熱工事がつきものですが、国内の住宅に断熱材が使われるようになったのは1970年(昭和45年)くらいからです。

しかし最初のころはほとんど断熱材の効果が認知されておらず、まだまだ断熱材を使用した住宅は少なかったようです。

また当時は断熱材の誤った使用方法により、さまざまな問題が発生しています。

今は当たり前の断熱材。昔はなぜ入っていなかった?

2階の天井裏に断熱材のない築40年前後の家

当初は断熱材を厚くするほど家の中が暖かくなるという発想であったため、北海道などの寒冷地ではそれまで50mmの厚みだったグラスウールの断熱材を100mmにしました。

その結果、築3~4年程度の住宅の床下に大量のナミダタケ(木材腐朽菌の一種で建物の湿った場所で繁殖して涙のように水滴を出す)が発生して、床が腐って落ちてしまうという事件が発生します。

この大きな原因のひとつが結露でした。

当時の建物には床下換気口が少なく、通風が悪いため湿気が多いという問題がありました。

また床下も土だったので、床下の土壌からも湿気が発生します。

さらに床高(地盤面から1階の床面までの高さ)も少なかったため、この水分が壁の中にも侵入して断熱材のグラスウールに吸収されます。

グラスウールが吸収した水分が木材を濡らし、腐朽が進行してナミダダケの繁殖につながったというわけです。

この事件をきっかけとしてさまざまな検証が行われるようになり、やがて断熱材だけ厚くしても断熱性能が向上するわけではないことがわかってきました。

むしろ壁の中を床下からの冷たい空気が流れることで、壁の中や天井裏の断熱材の部分で内部結露を引き起こし、木材が腐食してしまう原因になることがわかったのです。

そもそも断熱材がなければこのような問題が生じることはなかったといえるので、皮肉なものです。

進化し続ける断熱工法 

そこでこれらの問題を解消するために考案されたのが、今では当たり前になった「通気工法」や「防湿気密層」といった考え方です。

このように失敗を重ねてその都度少しずつ改善され、今の工法ができあがっているのがわかります。

つまり住宅のリフォームを検討する際に、もともと通気工法で建てられていない住宅では単に断熱材を厚くするだけで断熱性能を向上させようとしても、弊害になってしまうことがあるのです。

因みに1980年(昭和55年)に始まった断熱基準の変遷は次のようになっています。

省エネルギー基準断熱材の厚み
昭和54年(1979年)以前無断熱が一般的
昭和55年(1980年)基準 旧省エネルギー基準天井:40mm 外壁:30mm 床:25mm
平成4年(1992年)基準 新省エネルギー基準天井:90mm 外壁:60mm 床:45mm
平成11年(1999年)基準 次世代省エネルギー基準天井:200mm 外壁:110mm 床:110mm

※断熱材の厚みは6地域(東京23区等)において軸組工法でグラスウール10Kを使用した場合の必要厚

昭和55年(1980年)に始まった住宅の省エネ化は、最初は建物の断熱材だけの基準でしたが、平成25年の改訂で新たに「一次エネルギー消費量等級」ができ、建物の高断熱化だけでなく住宅設備の省エネ化が評価の対象に加わるようになりました。

そして現在は、一次エネルギー消費量ゼロを目指したZEH(ネット・ゼロ・エネルギーハウス)住宅の基準も作られ、住宅の一次エネルギー消費量のゼロ化が計られています。

断熱材の無い建物は欠陥住宅?

ここで重要なことは、建物が建てられた時期によって断熱基準が大きく異なるという点です。

また同時に、住宅の工法も改善されています。

すなわち、中古住宅を購入する際やリフォームを行う際に住宅診断・建物調査を行って、たとえ無断熱であったとしても、築年数によっては決して欠陥住宅や施工不良とは限らないということです。

また新築時の工法によっては新たに断熱材を充填したり、断熱材を厚いものに取り換えたりするだけでは十分でないばかりか、建物に悪影響を及ぼすことがあるということにも注意しなければなりません。

したがって何らかの不安や疑問を感じた場合には、ホームインスペクター(住宅診断士)や建築士などに建物や図面を見てもらい、アドバイスを受けた方が正しい判断ができると思います。

中古住宅を購入する際はもちろん、住宅のリフォームを行う前にもホームインスペクション(住宅診断)をおすすめします。

『かめだの部屋』住宅診断士・ホームインスペクター 亀田